時計台の時計機械は、重りを動力源とする振り子式の四面時計であり、このタイプの時計としては、日本に残る最も古い塔時計の一つで、現在も正確に動作しています。
時計塔は内部が5階建てで、外部から見える文字盤は最上階に設置されています。この部分には時計の鐘、鐘を打つハンマー、および四方の針へ動力を伝える機構が収められています。
時計のメイン機構は4階にあり、3階まで伸びる大きな振り子が歯車に動力を供給し、時を静かに刻みます。
時計の駆動と鐘を打つ動力は、ワイヤーで繋がれた2つの重りによって提供されており、時計用の重りは2階まで、ハンマー用の重りは1階まで下降します。これらの重りは木箱に豊平川の玉石を詰めたもので、運針用は約50kg、打鐘用は約150kgです。重りの巻き上げは現在も人の手で週に2回行われています。
時計はアメリカ、ボストン市に本拠を置くハワード社製で、製造番号(No.738)が機械に刻まれています。ハワード社は1842年にエドワード・ハワードによって設立され、時計製造において革新的な役割を果たし、精度と実用性で知られています。
この時計の鐘の音色は、かつて約4km四方の範囲に響き渡り、時刻を告げていました。1888年1月には札幌の標準時計として公式に認定されたこともあります。
札幌時計台の建物の構造
時計台は、明治時代に開拓使によって建設された木造の洋風建築です。
この建築は札幌農学校の一部として機能し、その他にも豊平館(現在の中島公園内)、開拓使工業局庁舎(現在の北海道開拓の村内)などと共に、札幌市内で残る数少ない歴史的建造物の一つです。
外壁は羽目板のイギリス式下見板張りで、カーペンター・ゴシック様式と称されるシンプルなデザインが特徴です。時計塔が後に追加されたため、正面のプロポーションが「頭でっかち」と評されることがありますが、このユニークな形状が親しみやすさを与えています。
時計台の内部構造は、以前は細い柱が使われていると思われていましたが、最近の修理工事で太い木材を用いた伝統的な日本の軸組工法に近いことが明らかになりました。
しかし、2階の部分は洋風のフレーム構造を採用しており、細い鉄管を用いて壁の広がりを抑えつつ、柱や梁を使わない広い空間を実現しています。この部分はアメリカ中西部の開拓時代に流行したバルーンフレーム技術が取り入れられています。
この時計台は、ヨーロッパの建築スタイルがアメリカを経由して伝えられたコロニアル建築の流れを汲んでいますが、当時の欧米から招聘された技術者や農学校教師に建築の専門家がいなかったため、開拓使の技術者である安達喜幸らが洋風建築技術を独学で取り入れ、設計施工したことが特徴です。
これは、高度な木造建築技術を持つ安達の工夫と努力の結果であり、その結果、140年以上経過した現在も時計塔は正確に時間を刻み続けています。振子式の塔時計は、基盤が水平でないと正しく機能しないため、これも建築技術の高さを示しています。
時計の仕組み・メカニズム
時計台の時計は絶えず動き続けており、毎時ちょうどに時刻を示すための鐘が鳴ります。
1日に合計156回、時間ごとの鐘が鳴る仕組みです。時計の運動エネルギーは重りの重力によって生み出され、この力が歯車を動かす原動力となります。
ただし、歯車が連続して回転するだけでは時計として機能しませんので、回転を一定の間隔で制御する必要があります。この制御を行うのが、振り子を使用した脱進機(アンクルとガンギ車)です。アンクルの先端がガンギ車の歯に接触することで、歯車の回転が段階的に進められます。
一方で、アンクルの先端がガンギ車の歯から離れる際には、アンクルは左右に微妙に押し動かされます。この動作が振り子に伝わり、振り子が連続して左右に揺れる動きを維持することができます。
時計台の2階では、ハワード社製のもう一つの振子式塔時計が設置されており、こちらは鐘を打つ機能は備えていません。この時計の精巧な動きを見ることで、時計の魅力的なメカニズムを体感することができます。